全国各地で増え続ける空き家。大きな社会問題として取り上げられる機会が多くなってきた近年ですが、今後も深刻化が危惧されています。
そもそも、今の日本でどうして空き家が増えているのか。そして空き家が増えると具体的に何が問題なのか。対策はどうなっているのか。
今回は「空き家問題」について、もう一度その背景から見ていきましょう。
なぜ空き家が増えているのか
少子高齢化・人口減少が進んでいるから
高齢化が進み、多くの人が晩年を介護施設で過ごすようになると、それまで住んでいた家が空き家となってそのまま残されることが多くなりました。
子どもの数も減っていて、空き家となった実家を継ぐ子どももなかなかおらず、結果空き家のまま放置…という状態になるわけです。
主産業の移り変わり
日本の主産業は、かつては地方で行われる農林水産業でしたが、現代になってそれが都市でのサービス業へと移り変わってきました。
そうすると、人口も地方から都市へ流れていきます。若者は生まれ育った地方の街にいても仕事がないため、どんどん都市へ出ていくからです。
そして都市部で仕事に就いてしまったら、生まれ育った街に帰ることはなかなかなくなるでしょう。そうすると、実家を受け継ぐ子どもがいなくなり、地方にどんどん空き家が増えるわけです。
親の住んでいた実家を、とりあえず相続して空き家として持て余す…その図式は、まさにこの例の示す通りなのです。
新築人気
日本人には、「新築住宅が人気」という傾向があるそうです。マイホームを手に入れるなら中古ではなく新築がいい、と思う人が多いのですね。
特に論理的な理由ではなく、単純に「気持ちの問題で」というところが大きいようですが、みんながみんな新築住宅を望むのであれば、住居の数は増えていく一方です。しかも昨今は人口減少の傾向も顕著。なのに住宅メーカーは、新築を望む人たちのために毎年新商品をリリースします。世の中には「昔新築だった」中古住宅が山のように空き家となって残っているのに、マイホームを望む人はまた新しい土地に新しい家を建てていくのです。
こうして住宅の需要と供給のバランスがどんどん崩れ、単純に世の中の世帯数よりも住宅の数が上回っていくわけです。
マイホーム信仰の衰退
かつてはマイホームを手に入れてこそ一人前、それこそがステータス、というような「マイホーム信仰」があったものでした。
「若者のマイホーム離れ」ではありませんが、たしかにそういった考え方を持つ人は、近年減ってきています。「持ち家と賃貸住宅、どちらがいいか」という論争もあちこちで見かけますし、メディアでも持ち家はリスクになりうるという見方を示しています。
今後、マイホームを持とうとする人はこのまま減少の一途をたどり、賃貸住宅派がさらに増えていくと予想もされています。
前項では「マイホームなら新築住宅が人気」と述べましたが、そもそもマイホーム信仰者が減っていくのだとしたら、新築でも中古でも住宅は売れなくなっていきます。現在あふれかえっている空き家はそのまま残り、増えることはあってもやはり減ることはなくなってしまいます。
晩婚化・未婚化の流れ
前項の「マイホーム離れ」と似ていますが、昨今は晩婚化・未婚化の流れも大きく、そうするとやはり家庭を持たずに独身でマイホームを望む人はあまり多くないため、中古住宅の売れ残りにもつながっていくという図式が考えられます。
空き家が放置されることによって起きる問題点
空き家が増える背景についてはわかりましたか。次は空き家が放置されることで危ぶまれる問題点について、まとめておきましょう。
安全面の問題
老朽化が進み、破損や倒壊のリスクが大きいのが空き家です。ちょっとの風や地震で壁が剥がれたり、屋根が落ちたりする可能性も考えなければいけません。それが隣家や通行人に害を及ぼすとなったらおおごとですよね。
防災面の問題
空き家は、放火犯からの格好のターゲットにされやすいものです。ごみなどが放置してあれば燃えやすいために、なおさらです。
また、ひと気がなく管理が行き届いていない空き家は、不法投棄場所としても狙われやすくなります。庭が不法投棄物の山にされ、建物には火をつけられる…そんな恐ろしいことが起きる可能性があるのです。
衛生面の問題
雑草が伸び放題の庭には、野生動物や害虫が棲みつく恐れもあります。枝が伸びて手入れのされていない庭木からの落ち葉が道路を埋め尽くすこともあるでしょう。管理さえされていれば美しい庭も、放置されれば不衛生のかたまりなのです。
治安面の問題
見通しの悪い庭、誰も出入りすることのない家屋には、不審者や犯罪者が棲みついた事例まであります。
資産価値の問題
ただでさえ老朽化が進んだ空き家なのに、さらにそこから放置されていると劣化は進む一方です。湿気の多い日本で木造住宅が換気もされずに放っておかれるのは、まさに致命的なのです。そのままにしていたら、資産価値はどんどん下がる一方となるでしょう。
また、これまで見てきたように「安全・防災・衛生・治安」の面で問題を抱える空き家が並ぶような地域は、その街全体の資産価値にも重大な影響を及ぼします。
問題は、空き家所有者だけではなく、地域の住民全にも及んでしまうのです。
空き家問題への対策
空き家問題の深刻化を受けて、国や自治体でも対策を取るようになってきました。
国の施策
2015年に施行された「空き家対策特別措置法」は、悪質な空き家放置に対して行政が介入できるようになった法律です。ある一定の条件を満たした危険空き家を「特定空き家」に指定し、これに対して行政は改善の指導や勧告・命令を行って、従わなければ最終的に強制撤去ができるというものです。
もちろんこの途中過程で空き家の所有者がきちんと指導に従い、修繕や改善を行えば、特定空き家の指定は取り消えます。しかし最終段階の強制撤去まで行ってしまうと、建物は問答無用で解体されるうえにその費用も当然空き家の持ち主に請求されるのです。さらに固定資産税の軽減措置も外れてしまいます。
これまでは持ち主の意思が最大限尊重され、行政といえども強制的な措置がなかなかできませんでしたが、この空き家対策特別措置法の施行によりかなり思い切った処分が可能になりました。
今までのように「どうにかなる」と放置していると、どうにもならない段階にまでいつの間にか来ている、ということになりかねないのです。
自治体の施策
全国の各自治体では、空き家解体のための補助金・助成金を用意しているところがたくさんあります。今ではほとんどの自治体で実施されているといっても過言ではありません。
要件や補助額に関しては自治体によって千差万別ですが、たいていは「老朽家屋」「危険空き家」というものが対象で、解体した場合に工事費用のうちのいくらかを補助するという内容です。
また、「空き家バンク」制度を用意している自治体もあります。
これは一言でいうと「空き家のマッチングサイト」であり、空き家を売りたい・貸したい人がその物件を登録し、買いたい・借りたい人が検索して探す、というものです。
民間の不動産仲介業者は営利会社ですが、空き家バンクはそうではありません。併用することもできるので、積極的に活用していきたいですね。
まとめ
「空き家問題」の基本的な知識を網羅してみました。今後はますます深刻化する恐れがある問題です。他人事とは思わず、自分が当事者になったらどうするか、自分が何をできるか、常日頃から考える機会を持っておきたいものですね。